息子からの電話
「すこし、話したい事がある」
息子から、やや唐突に電話があった。
お盆休みに帰省できるかを問われるのか?と一瞬たじろぐ。
ボクの予想では、ちょうどその頃インド株と五輪開催のために、第5波がやってくると思っている。
だから息子は今夏も帰省できない。
でも、それを告げるのは、やっぱりつらい。
二言三言話してみて、どうもそんな話ではないことがわかった。
「お父さんの会社、今後どうしていくの?」
ああ、これは息子が自身の将来に悩み、状況を探っているのだ。
ボクは社長候補ができたこと、今後の事業の見通しなどをさらりと伝えた。
「会社は手放してしまうの?お父さんは続けたいの?」
なんだか跡を継ぐ思案をしているような口ぶりだ。
息子が大学を卒業して3年間、事業継承の考えはないかと、しつこいほど話した。
しつこすぎたのもあるが、最後には「100%ない」と言い渡された。
息子の人生だから仕方がない。親は受け止めて認めるだけだ。
その上で、最善の方策を探り実践するしかない。
会話を続けていくと、少しづつ彼の真意に近づいていく。
就職活動に失敗し、大企業に入れなかった。
給料は少ないし、将来も明るくない。
社会人5年目にして、世の中の現実を知ったのだろう。
自分が持っているあらゆる資産を棚卸したら、それはなんと貧弱で、もしかすると実家の事業の経済的価値が意外にも大きいことに気付いたのではないだろうか?
もっと早めに気付いてほしかった。
かといって、今の会社を辞めて介護の現場で汗をかくほどの覚悟はない。
少なくともボクには見えなかった。
使えそうで使えない実家の価値。
ボクとの会話の中でなんとか活用する手立てはないかと探っている。
息子に対して軽い失望を感じながら受話器を降ろした。
すこしは辛酸を味わうのもいいとおもう。
ボクは、ボクが読んだ十数冊の本を段ボールに詰め、宅急便で送ることにした。