ボクの定年

還暦オーバー!今日もチャレンジ!

ワクチン接種の予定が入り、ツーリング計画を始動します。

昨年の11月に決意表明をしています。

「四国一周15日間の旅」~四国お遍路の八十八か所をチェックポイントのかわりにして、15日間をかけて小さなバイクで旅をする。

当初は今年のゴールデンウィーク明け、5月15日頃を想定していました。

こんなに新型ウィルスの影響が長引くとは思っていませんでした。

県をまたぐ移動の自粛が必要だったので、旅とか行けませんでした。

 

だけど、ワクチン接種できます!

2回目の接種後2週間で、約95%の予防効果があるそうです。

これなら6つの県をまたいでも、感染の可能性は小さいです。

世の中にはゼロリスクはありません。

小さなリスクはガンガンとって行かないと、味気ない人生になりそうです。

あくまでもボクの考え方です。だって冒険が楽しいのだから。。。

 

具体的な計画を立てていきます。

①実施日:2021年9月以降

②期間:15日間

③予算:30万円(バイク購入費は除く)

④使用車両:HONDA クロスカブ110cc

⑤移動距離:1500km

⑥一日の移動距離:150km以内

⑦八十八か所のお寺の写真を撮る

 

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たった110ccのカブだけど、結構使える。

下道では十分な走行性能と取り廻しの良さは秀逸。

燃費は62km/Lで安定。

100kmぐらいでは、ぜんぜん疲れない。

いいかも、これ!

強者の論理

オリンピックはとうとう有観客で開催されそうですね。

何があってもやりきるんだ!という熱意が感じられます。

アスリート気質が満ち溢れるJOCや組織委員の、前だけを見る視線が痛いです。

 

スポーツが大好きだという人のほうが圧倒的に多いと思います。

地道な努力をひたすら重ね、自らの限界を超えた先に勝利を勝ち取る。

すばらしい事です。

観ているだけでモチベーションが湧きあがります。

多少きつくても筋トレしよう!って思います。

勝者を見ているからです。

 

オリンピックに出場できる選手は、ほとんど勝者です。

各国の予選を勝ち抜けてきた勝者のための大会です。

そのために敗者を含む一般市民は大きなリスクを負わされるのです。

努力で勝ち取った勝者という権威の前では、ただそれを讃えるしかないのです。

自分たちは努力が足らないので勝者ではない。

植え付けられた自己責任論のもとで、オリンピック有観客開催が目の前です。

 

資本主義の中では、戦いは日常です。

勝つか負けるかで人生が決まります。

商売敵と闘う、職場での出世競争、仲間内でマウントを取り合う、地域で一目置かれる存在になる。

そこらじゅう勝負だらけです。

勝者は目的を果たし発言力を高める。

敗者は黙して養分となる。

 

あるインフルエンサーが、自国開催のスポーツを観たいという理由でオリンピック開催に賛成だと話していました。

娯楽のために市民の生活が脅かされることになっても、なんら問題はないのです。

第5波がきて被害を被る人たちの事は、ただの敗者としかみえていないのでしょう。

努力して勝てばいいだけ。

勝つ能力がある人には、単純明快な論理があるのです。

 

菅首相にもアスリート気質があるのかどうか分かりません。

ただ五輪開催に向けて、前だけをみて突き進む姿勢は、勝つしかない状況に追い込まれたアスリートを連想させます。

 

なぜリスクを負ってまでオリンピックを有観客で開催しなければならないのか?

説明は必要です。

きっと巨大な勝者が娯楽を必要としているのでしょう。

 

わが社のワクチン接種方針

職員数20名にも満たないのにわが社の方針とかすみません。

利用者さんの接種は始まっています。

職員の接種が始まろうとしています。

極小の会社ですが、それなりの事は考えます。

考えなければならないからです。

 

ご利用者さんは7月末までに92%が接種予定です。

ボクが予想していたよりもずい分接種率が高いです。

きっと命のリスクを強く考えているのか、デイサービスという集団生活に必要と思うのかのどちらかでしょう。

ある意味、すこしだけほっとしました。

8月以降は利用者さんのクラスターは避けられそうです。

ただ、2回目接種時には体調不良によってデイサービスをお休みされる人が多くなるでしょう。計算に入れときましょう。

 

職員の接種には神経を使います。

判断は個人に任せます。それは当たり前のことです。

強制も同調圧力もあってはなりません。

しかし、なるべく接種して欲しいとお願いはするつもりです。

利用者さんの安心安全のために出来る範囲の努力が必要だからです。

正直に言い訳をすると、田舎では職員に感染者が出ると高い確率で事業は廃業に追い込まれるからです。

運営するものにとっては、職員の収入の維持は利用者さんの安心安全とおなじくらい重要なミッションです。

 

これまでは、バカバカしいと思われるくらい徹底的な感染防止対策をしてきました。

当然ながら、それでも感染のリスクはゼロにはなりません。

もし感染者が出たら、それはもう運が悪かったと諦める気でいました。

だけど、やっと自分たちでコントロール可能な状況が見えてきたのです。

しっかり考えて、しっかり努力したい。

職員の接種率が70%~80%になると、ボクみたいなボンクラ頭でも、重症化・死亡の可能性が天文学的な数字になると計算ができます。

 

ただ単に、ボク自身が安心したいだけかもしれません。

「もうあかんわ日記」読後感想文

 ひさびさに、泣き笑いをさせて頂きました。

何のきっかけだったかは忘れてしまいましたが、なんとなくポチり、なんとなく読み始めました。

すると、家族や人間や動物や障害と向き合う姿勢に感銘しまくり。

作者の岸田奈美さんには”ありがとう”と伝えたい気持ちでいっぱいです。

 

「もうあかんわ日記」はnoteというweb媒体でたった37日間書かれた日記が書籍化されたものです。

本の帯には100万回読まれた日記と記されています。

一日あたり2万7千回!

まあまあの衝撃です。note恐るべし。いやそこではない。

人の心を動かす文章は、ちゃんとバズるんだと思い知りました。

ただ、著者は決してバズろうとして書いていない。

「もうあかん」という状況に白旗を上げるつもりで、こうなったらもう笑ってもらうしかないという気持ちで書かれています。

そこには意図しない正直さが表れてしまいます。

意図する余裕がないから。

 

介護を生業にするボクには、その正直さに胸をえぐられるような痛みも感じました。

共に生きて行こうという覚悟が足らなかったのではないか?

支える人と支えられる人を安易に別けていたのではないか?

そこに愛はあるんか?

 

是非、購入して読んでほしいと思える本です。

ひとつだけトピックを紹介するなら、飼い犬の話です。

散歩中にわんわん吠えまくる飼い犬に口輪をつける。

だけどそれを不憫に思う岸田さんは自分も同じ口輪をつけて散歩に出る。

これはあかん。泣いてまうがな!

読書の一時中断を余儀なくされました。

涙を流しながら、ラジオ体操第一を思い切りやることでやっと気持ちを落ち着かせて、続きを読むことが出来ました。

 

読んだ人は、誰もが彼女を応援したくなると思います。

それは、応援することで、少しでも自分の罪深さを薄めようとする心理の裏返しなのかも知れません。

 

 

長年の使用で黄ばんでしまったU首のグンゼYG肌着のようなボクの心は、仮に消臭漂白剤ワイドハイタ―EXで一時的に真っ白にすることが出来ても、彼女のような純粋さを再獲得するのは無理でしょう。そんな切ない読後の感想でした。

息子からの電話

「すこし、話したい事がある」

息子から、やや唐突に電話があった。

お盆休みに帰省できるかを問われるのか?と一瞬たじろぐ。

ボクの予想では、ちょうどその頃インド株と五輪開催のために、第5波がやってくると思っている。

だから息子は今夏も帰省できない。

でも、それを告げるのは、やっぱりつらい。

二言三言話してみて、どうもそんな話ではないことがわかった。

 

「お父さんの会社、今後どうしていくの?」

ああ、これは息子が自身の将来に悩み、状況を探っているのだ。

ボクは社長候補ができたこと、今後の事業の見通しなどをさらりと伝えた。

「会社は手放してしまうの?お父さんは続けたいの?」

なんだか跡を継ぐ思案をしているような口ぶりだ。

 

息子が大学を卒業して3年間、事業継承の考えはないかと、しつこいほど話した。

しつこすぎたのもあるが、最後には「100%ない」と言い渡された。

息子の人生だから仕方がない。親は受け止めて認めるだけだ。

その上で、最善の方策を探り実践するしかない。

 

会話を続けていくと、少しづつ彼の真意に近づいていく。

就職活動に失敗し、大企業に入れなかった。

給料は少ないし、将来も明るくない。

社会人5年目にして、世の中の現実を知ったのだろう。

自分が持っているあらゆる資産を棚卸したら、それはなんと貧弱で、もしかすると実家の事業の経済的価値が意外にも大きいことに気付いたのではないだろうか?

もっと早めに気付いてほしかった。

 

かといって、今の会社を辞めて介護の現場で汗をかくほどの覚悟はない。

少なくともボクには見えなかった。

使えそうで使えない実家の価値。

ボクとの会話の中でなんとか活用する手立てはないかと探っている。

息子に対して軽い失望を感じながら受話器を降ろした。

 

すこしは辛酸を味わうのもいいとおもう。

ボクは、ボクが読んだ十数冊の本を段ボールに詰め、宅急便で送ることにした。

 

働かないジジイの独り言

働かないジジイです。

本当にすみません。

正確には働けないから働かないのです。

集中力は、もって3時間、一日のうちで仕事しているのは半日です。

あとは本を読んだりネットニュースを見たりして過ごします。

 

仕事しないのなら自宅に帰ればいいじゃんという声が聞こえてきそうです。

が、そう簡単な話ではありません。

一つには、ボクの人望がそれほど高くないために、社員の反感を買う。

二つ目に、ごく小さな、ボクにしかできない用務員的な仕事がある。

花壇の草むしりとか送迎車の運転とかです。

このことで、さっさと自宅に帰ることが出来ません(泣)

 

「もう以前のような仕事はできませんよ」

社員の皆さんには、何回も打ち明けています。

「多少無理をすればできるでしょ?」

たぶんそう思われているでしょう。

だけど、本当に難しいのです。

もし、無理して仕事をすると、高い確率でミスをするでしょう。

経営判断のミスは後々たいへんな事態をまねきかねません。

そんな事になる前に、ボクは働かないという選択をしました。

 

自分の給料も30%以上削減しました。

まだまだ減らしてもかまいません。

だけどまだ、皆はボクの仕事に期待をしているようです。

ガンガン働いていたボクを知っている人はなおさらです。

嬉しいけど、辛いよ。

 

会社のことを考えると、早く若い世代にバトンタッチするのがいい。

老兵は静かに立ち去るのがいい。

ジジイがいなくなってもしっかり運営できる組織に育ってほしい。

そうするとゴルフに行ったり釣りに行ったり、ボクは楽しくなるのです。

長い夜の旅

17:30

「それでは、よろしくお願いします」

ボクは事務課長から病院のマスターキーを預かった。

これから明日の朝まで事務当直の任務にあたる。事務当直というのは、17:00~21:00の事務受付業務、具体的にはお見舞いの人の対応や入院費等の受領、時には救急患者の受け入れ対応などがある。

些細な仕事としては、宿直医師の夕食を医局まで運ぶ、防災用の非常発電設備の点検などがある。

21:00以降は基本的に宿直室待機なのだが、24:00には敷地内の安全見守りという謎の業務も強制されている。

完全に労働基準法違反だと思うのだが、文句を言うのも面倒くさいので、そのままにしている。

ボクはリハビリの専門職としてこの田舎の老人病院に勤めて8年になる理学療法士である。4年前に結婚した妻と2人の子供がいる。

ちなみに当直は10日に1回、月に3回ほどだ。

 

18:00 

日勤の職員が帰って行く。仲の良い看護師S子(28歳)がすれ違いざまに

「今日はアリかもね」

と意味ありげに囁いた。

残念ながら色っぽい話ではない。

今日はこの病院で寿命をまっとうする患者さんがいるかもねという意味だ。

いつもながらとてもブルーな心境になる。

人間の死に対する神聖な気持ちと自分の仕事が大変になることがゴチャゴチャになって混乱する。

それでもプロらしく僅かに口角をあげて

「まかせろ」

と虚勢を張った。

 

19:00 

 患者さんの家族が入院費を払いにくる。

間違いがあっては面倒なのでしっかり確認しながら手続きしていたら

「遅い!」

とキレられた。

そして自分の親なのに面会もせずに帰って行った。

老人病院に入院している患者さんの1/3は寝たきりだ。

そしてそのほとんどが、もうコミュニケーションを取ることが出来ない。

 

20:00

宿直のドクターの食事を医局に届ける。

当直業務の中でボクが一番嫌いな作業だ。

厨房でラップしてある宿直定食をレンジでチンして運ぶだけ。

 ドクターは大学病院からのアルバイトでボクよりも若いことが多い。

髙そうなソファーに腰を下ろしてテレビを観ている。

「お食事をお持ちしました」

と声をかけると

テレビの画面から顔をそらすことなく

「ウィー」

と、ふざけた応答をされる。

それどころか

「ココのご飯、ちょっと不味いよね」

ボクの顔も見ずに愚痴られる。

知ったこっちゃねぇと思いながら、それでも

「すみません」

と頭を下げて医局を出る。

 

21:00

戸締りの時間だ。

玄関や外来診察室やリハビリ室、厨房などの見回りと戸締りに廻る。

マスターキーをカチャカチャと振り回しながら指さし確認をしていく。

いつものことだから見落としなんかないのだけれど、問題は起こしたくない。

慎重に施錠を確認する。

遠くで暴走族の爆音が聞こえる。同時に足元で虫の音もする。

ここまではまあなんとか平和だなと安どする。

 

21:27

閉めたばかりの正面玄関のドアを猛烈な勢いで叩く音がする。

ボクは宿直室から飛び出して、狼狽えながら状況の把握に努める。

40代のがっしりとした背広姿の男性が、20代そこそこの女の子を抱っこしている。

男の形相は真っ赤で鬼のようだった。

そして抱えられている女の子は意識がないみたいだ。

尋常じゃないと判断して急いで玄関のドアを開けた。

なだれ込むように院内に入った男は、玄関のすぐ横にある受付カウンターに、女の子をドンと置いた。

「なんとかしてくれ!」

やっぱり大変な状況のようだ。

騒ぎを聞きつけて、ドクターがやってきた。

どうしました?との問いかけにもかぶせ気味で

「こいつ、睡眠薬を大量に飲みました」

「死なせないでください」

ボクは外来診察室の鍵を開けながら、男の話に聞き耳をたてた。

近くのラブホで一緒にいた女の子が自殺を図ったようだった。

どうも、不倫みたいだ。

ドクターは女の子の年齢や睡眠薬の摂取量などの情報を、効率よく聞き出していく。

悔しいけど、狼狽えて興奮しているボクとは真逆で、冷静で優秀だ。

少しづつ男のほうも落ち着いてきた。

身分証明のための運転免許証と健康保険証の提示を要求した。

男は一瞬ためらう素振りを見せた。

「俺の保険証、何に使うんだよ?」

そうだった。患者は女の子だから女の子の保険証が必要なのだ。

無能さが悟られてしまわないように話をそらし、女の子のバッグの中から保険証を見つけて欲しいと頼んだ。

幸い、すぐに見つかって、ボクはボクの責任を果たしたような気分になった。

 

23:35

女の子が接種した睡眠薬は20錠ほどで、とても致死量に届くものではなかった。

ドクターは生理食塩水の点滴と、導尿(尿道口に管を通して強制的に排尿させる)の処置で、女の子はすぐに意識を回復した。

グスグスと泣き出していたが、自殺未遂よりも導尿された恥ずかしさのほうが勝っているのか、男の陰に隠れて泣いていた。

そろそろ日付が変わろうとする頃、二人は乗ってきた車で帰っていった。

 

0:30

 見回りの時間が30分遅れることになったが、気を取り直して病棟を巡回した。

案の定、3Fナースステーションではボクが来るのを待ちわびたように看護師からの質問攻めを受けることになる。

個人情報だから話せないと、上手くかわそうとしても、彼女たち(推定40歳~60歳)の下衆な好奇心は、それを許してくれない。

結局、ナースステーションに連れ込まれて、イチゴ大福などのおやつを強制的に喰わされた。

そして、イチゴ大福が交換条件のような役割を果たし、ボクは洗いざらいゲロした。

もちろん男女の氏名住所だけは、悪魔の手に渡してなるものかと死守したのだが。

せめてもの良心というものだ。

 

やっとのことで3F病棟を脱出したボクは、2Fナースステーションで急にテンションを落とすことになる。

重症患者が多い2Fに足を踏み入れた瞬間、なにかとても重たい空気を感じた。

その時になって、夕方にS子に耳打ちされたことを思い出した。

そうだ、危ない人がいるんだ。

ボクは意味もなく足音を立てぬようにそろりそろりと歩き出した。

ステーションに声をかけると、ドクターと看護師が忙しそうに歩き回っていた。

「ご家族に連絡をおねがいします」

と、超真顔で告げられた。

ボクは、つい15分前の自分をおもいっきり恥じた。

本当にくだらない人間だと、心の底からおもった。

「わかりました。急いだ方がいいですか?」

「もう、呼吸が浅いです」

いつも冗談を言い合う看護師の顔も緊張している。

カルテから連絡先をメモしたボクは、ひどく事務的な態度に豹変していた。

 

1:10

病棟から事務室に帰って、慌ただしく準備を始めた。

まず、家族への連絡。

「このような時間に申し訳ありません。○○様のご容態が急変されましたので落ち着いて病院までお越しください」

「・・・・はい・・・」

数日前から病態は知らされていたので、ご家族の口数は少ない。

それから再度閉めた正面玄関をまた開錠して、ロビーの照明をつけた。

霊安室に入り、蝋燭やら線香やらをセットする。

事務室にとって帰り、死亡診断書の準備にとりかかる。

まだ亡くなってもいないのに、とんでもなく失礼な事だとわかっている。

だけど結果的にはスムーズな進行が感謝される。

 

2:00

家族が病院に到着する。

「ご心配です、お二階になります」

なんとも間抜けな挨拶をした。

家族はボクに一瞥もすることなく階段を上がっていく。

こんな時はなるべく言葉を交わさないほうが良い。

何を言っても殺気立っている家族の耳には届かないからだ。

ボクは事務室に戻り、死亡診断書の準備の続きに専念した。

何人かの家族がロビーに降りてきて、ぼそぼそと話しをしている。

時々、虫の音が混ざる。

 

4:05

「死亡診断書を持ってきて」

ボクよりも若くてボクよりも優秀なドクターから内線が入った。

それは患者さんが亡くなったという事を意味していた。

2Fに上がると家族全員が沈痛な面持ちで亡くなった老婦人を見つめていた。

立ち止まり、家族の背中に無言でお辞儀をして、ナースステーションのちいさな回転椅子に座っているドクターに近づく。

あと数カ所を埋めるだけで完成する死亡診断書を手渡した。

またしてもこのドクターはボクの顔を見ないままだ。

背を向けているドクターの後ろで、ボクは立ったまま死亡診断書が完成するのを待った。

 

5:50

病棟の看護助手の手で死に化粧を施されたご遺体は、霊安室の小さなベッド横たわっている。

思った通り、ご家族の希望は少しでも早く自宅に連れて帰りたいとのことだった。

 

葬儀社の車が霊安室に横付けされ、最短距離で車上の人となった。

ボクは長男と思われる人に封筒に入った死亡診断書を渡した。

「大事な書類になりますので・・・」

この時の適切な言葉が未だに分からない。

そしてパァーーーーーン と寂しげなクラクションが裏口から消えていった。

 

6:30

休む間もなく朝の見回りをはじめる。

すっかり明るくなった空が残酷なほど青い。

そういえば晩メシ食べていなかった。

 

7:00

事務所の小さいシンクで歯みがきをしていたら、事務長が出勤してきた。

「今ごろ歯みがきですか?準備が悪いですね」

なにも知らない奴が、なんてことを言うんだ。

腹が立ったが面倒くさいので完全無視してやった。

あとから出勤してきた事務課長にマスターキーを返して、ボクの長い夜の旅が終わった。

 

これから一睡も取らずに通常業務が始まると思うと、毎度のことながら胃が痛い。

 

 

 

※体験に基づくフィクションです