ボクの定年

還暦オーバー!今日もチャレンジ!

或る架空のできごと

50年前、日本は、いや地球はウラトラマンによって救われた。

突如あらわれた怪獣49体を抹殺して地球の平和を守ったのだ。

M79星人であるウラトラマンにどのようなモチベーションがあったのだろう。

ともかく、命がけのボランティア活動をして去っていった。

 

人々がウラトラマンの存在を忘れかけた頃、いまから2年前、1つの問題が起こった。

ウラトラマンの必殺技であるスーペシウム光線 が発射された土地の地中から、大量の残留ペシウムが発見されたのだ。

そしてそれは最悪な事に、汚染された土地の近くの住民のさまざまな健康被害を引き起こしていった。

発熱、おう吐、味覚障害、尿失禁、コミュニケーション障害などありとあらゆる症状が土地近辺であきらかに多く出現した。

さらにマズイことに、ペシウムは人体を介して空気感染をしているようだった。

あっという間に日本全国にペシウムは拡散した。

街には日本語を上手に話すことが出来ず、さらに小便を垂れ流しながらあるく人であふれた。

ペシウム被害から住民を救う手立てがまったく分からない。

それはペシウムは地球外の物質であるからだ。

たぶんM79星雲のどこかの物質だろう。シランケド

もちろん治療に当たるべき日本の医学では手も足も出ない。

日本政府はアメリカと中国の科学技術に頼ることになった。

 

アメリカの対応は素早いものだった。

わずか2ヶ月で治療薬を開発した。

まるで50年も前からペシウムの研究をしていたのではないか?と疑うスピードで、アメリカ国内の大手製薬会社が量産を決めた。

しかも1アンプル300万円という値段だ。

中国も負けていない。

6ヶ月で薬を開発して、それを材料に、南の島の領有権を主張するなどの政治的圧力をかけてきた。

 

ウラトラマンはもう来ない。

自分たちでしっかりと代償を払って解決するしかない。

日本政府は巨額の国債を発行してアメリカから治療薬を買った。

 

これで終りではない。

新薬の治験をほとんどやらずに投薬しまくったものだから、副反応が半端ではなかったのだ。

主に精神を壊した。

躁鬱症状と感情失禁また攻撃性が高まるなど、日常生活に支障をきたす患者がバク増してしまった。

 

そうなると、コントロール不能に陥った国民の怒りは、50年前に日本をいや世界を救ってくれたウラトラマンに向かうことになる。

あいつがスーペシウム光線を発射しなければ、こんな惨状になっていないと各地で暴動が起きた。

狂暴化したデモ隊は訴えたい内容を、コミュニケーション障害のためにうまく言語化できないだけでなく、失禁しまくるものだから、あたり一面臭くてたまらない。

暴動を起こしたってウラトラマンに届くはずがないのに、振り上げたこぶしの降ろしどころを失って、市役所や、村役場は凄惨を極めることになる。

もう、こいつら全員、怪獣に踏みつぶされてくれないかな。

そんな不謹慎な思いを抱く国民は少なからずいただろう。

 

そんな時に、ついにあの怪獣ベムラーが復活する。

ウラトラマンから護送されて宇宙墓場にむかっていたベムラーがまたもや脱走し、地球いや日本に降り立った。

小便を垂れ流しながら言葉にならない声で泣き叫ぶ罪なき人々。

ベムラーはその巨大で無慈悲な足で人々を踏みつぶしていく。

 

脱走したベムラーの後を追って再来日したウラトラマンは、早目のスーペシウム光線を準備した。

おなじ怪獣を同じタイミングで脱走させてしまった。

同じミスを犯すなんて俺はかなりヤバいんじゃないか?

ウラトラマンの心中は穏やかではなかった。

さっさとペシウムを浴びせて任務を完遂させなければならない。

そうしないとM79星での出世は望めなくなる。

ウラトラマンタロウなど実力の高い後輩からマウントをとられてしまう。

それだけは嫌だ。

偽りのないウラトラマンの心境だった。

 

その時!

!!ペシウム反対!!

そう書かれた青い横断幕がウラトラマンの眼に入った。

サッカー日本代表を応援するウルトラスJAPANの横断幕に、無理やり上書きされた怒りのワードだった。

デモ隊は、住民の許可なくスーペシウム光線を使用しないように求める。

自分が闘えば地球人は応援してくれるものと信じていたウラトラマンはショックの色が隠せない。

科学特捜隊やMATの姿もない。

それどころか地球人はスーペシウム光線の使用にも反対している。

地球のために戦っているのに、なんて仕打ちだ!

ウラトラマンの心から地球を救うモチベーションが急速になくなっていった。

 

ベムラーは充分な民意を得たあとで退治すれば良い。

ウラトラマンはそんな結論を出していた。

今、スーペシウムを使うタイミングではない。

まず、人々がベムラーによって多大な被害を被る必要がある。

ベムラーに踏みつぶされるくらいなら、多少のペシウム汚染は容認する。

そのような世論が形成されるまでは、静観しよう。

ウラトラマンは固く誓った。

 

しかし、落ち目のヒーローの予想は当たらない。

なんと、一度ペシウムを被ばくした経験のあるベムラーの体液が、ペシウムに対する抵抗性があることが分かったのだ。

免疫反応が確認された。

分かりやすく言うと、ベムラーの排泄物を摂取するとペシウム症状が劇的に回復した。

ついでにペシウム治療薬の副反応も改善された。

ベムラーは救世主となった。

さらにウラトラマンによる攻撃がなくなることで、すっかりおとなしくなった。

ベムラーは守り神だ。

世論は真逆のコンセンサスを形成した。

 

なんといっても地球上には3分間しか滞在できない。

ウラトラマンはほとんどの時間を宇宙空間から観察するしかない。

完全に役割が無くなったことを自覚したウラトラマンは、すべて放り出してM79星に帰ろうと決めた。

齢を取っていた。

引退してもだれも文句は言わないだろう。

ウラトラマンタロウと競わなくてもいい。

 

都合の良い言い訳をしながら、ウラトラマンは帰路に付いた。

途中、凶悪なバルタン星人とすれ違ったが、どうでも良かった。