ライトノベル風 モンハン日誌
今年は桜が早く散る。
年度末には、もう力強い緑葉が風になびいていた。
コモシンはわずかな私物を抱えて、ギルド事務所の裏口から外に出た。
ついに退職の日となった。コモシンは心も身体も軽くなった実感に包まれている。
60歳という年齢はまだ充分この仕事を続けることができる年齢だ。
しかもギルドの管理職というのは、おおくの村人から信頼を受けている数少ない職業だろう。
安定を求めるならこのまま長老になるまで机の上の業務を続けるのが賢い考えだ。
ギルドの受付嬢たちが別れのあいさつに裏口に出てきた。
「コモシン、お疲れ様でした。これからはゆっくりとお過ごしください」
「ご健康をお祈りします」
コモシンは最後まで事務的な彼女らの言葉に、あきらめとも取れる笑顔をむける。
「ああ、世話をかけたな。これからもハンターと本部の橋渡しをよろしく頼むよ」
空を見上げると、遠くに白い雲が細く流れて、小鳥のさえずりが聴こえた。
カムラの里は平和そのものだった。
穏やかな里のなかで、コモシンだけはひとり焦りを感じていた。
ギルドの業務を遂行する中で、この世界に起きつつある危機を知ってしまったからだ。
それは数年前から兆候があった。
辺境の地でしか活動していなかった飛龍などモンスターたちの異変だ。
ギルドの調査部隊によると、それまできちんと自らのテリトリーを守っていた飛龍たちが、そのテリトリーを越えて暴れはじめている。
大型の肉食獣の多くが落ち着きなく互いに争い始めているのだ。
このままこの状況が続けば、世界は破滅する。
コモシンは自ら立ち上がる決断をした。
飛龍を狩るハンターになって世界の秩序を取り戻す。
60歳には無謀とも思える決断だったが、コモシンの覚悟は古龍の骨のように堅かった。
続く(笑)