カラス
いつものようにウォーキングをしていた。もうすぐ自宅に帰りつく、最後の坂の登り口に差し掛かった時だ。
ごみステーションの金網の上に一羽のカラスが佇む姿が視界に入ってきた。なんだか太ってて頭部が大きく感じた。
ごみステーションまで50mの距離に近づいても微動だにしない。20mまで接近しても、チラリとこちらを見ただけで、ぷいと横を向いた。
ボクは少しだけイラついた。
「最近のカラスは人間を怖がらない」
そんな話題を聞いたような聞かなかったような。
ボクの心が攻撃的になっている。
「人間様を怖がってさっさと逃げやがれ」
そう念じた。
ついにカラスとの距離は10mになった。
今度はなんとカー助がボクに対してギリッとメンチを切ってきた。
一瞬、ひるんでしまった。
自分の弱さを隠すためにボクはより攻撃的になり、思いっきりガンを飛ばすと同時に拳に力を入れた。
その瞬間、カラスはふわりと空中に移動し、すぐ近くの電線にとまった。
石でも投げつけようかと思ったが、さすがにそこまで幼稚じゃない。
カラスのとまっている電線の下を何事もなかったかのように通り過ぎようとした。
「カァー」
奴が一声啼いて再びごみステーションの金網の上に降り立とうとした。
ボクは咄嗟に身をひるがえし、今まさに着地しようとしていたカラスに詰め寄った。
距離にして3mほど。
今度はカラスがひるんだ。一瞬だけ。
ボクに目を合わせると、ゆっくりゆっくり空中を上昇した。
勘違いかもしれないが、ボクにはその顔が笑っているように見えた。
たしかに興奮してしまった。動悸が早く強く打った。
口にこそ出さなかったが、心の中でカラスに捨て台詞を吐いた。
「どうせお前らは人間様の残版を漁って生きるしかない生き物だ。寿命もずっと短い」
「腐った肉を喰って腹を壊せ!」
精一杯の強がりだった。
カラスは笑いながら
「それでも俺はカラスもままが良い。人間なんて大変だろ?」
「ずっと地べたで消耗してんだろ?」
そんなキツイセリフがボクの頭の中で聞こえた気がした。
そしてカラスは一旦電線にとまりなおしてから、スイーと向かいの丘の稜線にむけて飛んで行った。