セミリタイア small life

還暦オーバー!今日もチャレンジ!

コロナウイルスの毒 あくまでもフィクション

彼女は新人社員の教育係として新しい職場に赴任したばかりでした。中古だけどニュータウンに一軒家を購入し、定年を迎え東京から地方都市への移住は不安というよりワクワクとした期待感が胸を占めていたことだろう。職場の雰囲気も良かった。

最初の感染者 

 

しかし、彼女は不運にも県内初のコロナウイルスの感染者となったのです。小さな地方都市は蜂の巣をつついたような騒ぎになりました。もちろん住所や名前は伏せていましたが、連日ニュースで取り上げられ、勤務地や大まかな居住地が噂として流れるまでに時間がかかるはずもなかったのです。

症状は軽く2週間後には退院の許可が出ました。しかし、彼女には戻る居場所がないことに気付いていました。勤め始めてまだ3か月しか経っていない職場は、県内初の感染者を出した事業所として保健所や自治体の担当官が出入りするようになり、特定されることになりました。売り上げの減少は著しく、風評被害で関係のない社員までバイ菌扱いされることも。

「会社は辞めよう」

 

「ほとぼりが冷めるまで1か月ほど実家に帰ろう」

彼女はそれでリスタートできると思ったのです。でも、その望みは叶いませんでした。

1か月後に彼女が自宅に帰ると、玄関には・・「出ていけ」と書かれた張り紙が張られていました。リフォームしたばかりの窓ガラスは投石で割られ、たった1か月で10年くらい経過したような雰囲気になっていました。彼女は諦めました。そして一晩も自宅に泊まることなく街を出て行ったのでした。

 束の間の安堵

 

引っ越し業者が来て、彼女の家が空家になったのを見て、近所の住民たちは安堵しました。彼女には悪いが当面の自分たちの危機は去ったのだと考えました。だけど数日もするとそれが幻想なのだと気付くのです。

「ねえ、わたし田中さんとこの息子さん、大阪で働いている息子さんを見かけたわ、大丈夫かしら」

民生委員のおばちゃんが駅前でおしゃべりしているのを聞いてしまったのです。感染者が多い都会に住む人間は田舎の人間とは感染している可能性が何倍も高いのではないか? そう思うと全てが疑心暗鬼です。

 次は自分に矛先が向くのではないか?

 

もし、自分が感染したら玄関に張り紙され石を投げられるかも知れない。次にこの街を追い出されるのは自分かも知れない。 東京の娘には帰って来るなとLINEをする。週に1回、友達と行くカラオケ教室はお休みしよう。近所のスーパーは安全だろうか?田中さんの息子もスーパーで買い物をしているはずだ。ウイルスが付いた商品が今も陳列されているかも知れない。。ニュータウンの住民数千人の陰性が確保されないとスーパーで買い物をするのは危険だ。 自治会の回覧板は自分の家族以外に班員20名が接触する。班員20名には平均するとおのおの3名の家族がいる。要するに班内関係者60名が無感染である必要があるのだ。

コミュニティ崩壊、信じられるのは自分だけ

 

自治会はすぐに機能不全に陥ります。集会が三密を理由に開催されなくなりました。カラオケ教室も当分の間、休会だそうだ。そのほかの地域コミュニティもほぼ崩壊したようです。唯一奥様たちの長電話だけが地域のきずなを結ぶものと思えました。だか、妻の長電話の内容は自粛警察の活動報告になっていました。

高齢でローンが済んだばかりの一軒家、とにかくこの土地に住み続けなければならない。どんなことをしても感染を排除する 。

 

もう隣の住民が誰と会っているのか知らないと不安で胸がつぶれそうになるのです。